Jackson Brown

ロック回想録🍑梅ちゃん日記

Jackson Browne ─ Running on Empty

走りながら録った、旅暮らしのレコード
ミュージシャンが旅先で暮らす時間そのものを、
A面からB面まで、一枚のレコードにしたアルバム。

目次|開く・閉じる
  1. PROLOGUE|生梅日記
  2. MAIN STORY|Running on Empty
  3. A面 ─ ハイウェイからホテルの301号室へ
  4. B面 ─ バスの中には段ボール箱のドラム
  5. 終演後 ─ 客が帰ってから始まる歌
  6. EPILOGUE|49年後の生梅
PROLOGUE|生梅日記

Jackson Browne初来日。

同級生の村山と観に行った。
中野サンプラザ最前列。

演奏は素晴らしかった。

ところが、下手からパジャマ姿の息子が出てきた。

Jackson Browneの奥さんが、この少し前に自殺したという事実があるから、俺も村山も、あれには嫌悪感を覚えた。

村山というやつは、そんなポリティカルなシーンに必ず居合わす。感性の確かなやつ。

こんなに素晴らしい曲を書くJackson Browneが、曲が素晴らしいほどに、ちょっと偽善者っぽく感じた。

それから何年かして、今度はイルカを救えと言い出した。

ますます嫌になった。

MAIN STORY|Running on Empty

1977年。

Jackson Browneは、ツアーに出た。

そして、旅先でレコードを作ることにした。

ライブ・アルバムなら珍しくないが、Jackson Browneが考えたのは、コンサートの演奏だけを録音することではない。

ホテルの部屋、楽屋、走行中のバスの中。

ミュージシャンたちが毎日を過ごしている場所を、そのまま録音場所にして、完成したのが、5枚目のアルバム

『Running on Empty』。
邦題『孤独なランナー』。

全10曲。すべてツアー中の録音で、過去のアルバムに収録されていた曲は一曲もない。

普通のライブ盤なら、たいがい客が知っているヒット曲を演奏するもの。

それが、このアルバムには初めて聴く曲ばかりが並んでる。

観客の知らない歌を、観客の目の前で演奏した音源を録音してる。

A面 ─ ハイウェイからホテルの301号室へ

針を落とすと、いきなり1曲目の
『Running on Empty』。

1977年8月27日、メリーランド州の野外コンサート会場で録音された。

Jackson Browneの声に、Russ Kunkelのドラム、Leland Sklarのベース、Danny Kortchmarのギター。

そしてDavid Lindley。

このバンドが、すごい。

Jackson Browneの歌は繊細なのに、演奏は骨太ときてる。

とりわけRuss KunkelとLeland Sklarのリズムは、余計なことをせず、ただ、ひたすら前へ進む。

ガス欠だと言っているのに、演奏にはまだ十分な燃料が残っている。

2曲目『The Road』。

これはJackson Browneの自作ではなくて、Danny O'Keefeというシンガーソングライターの曲。

最初に聴こえてくるのは、ホテルの一室で歌うJackson Browne。

メリーランド州コロンビアのCross Keys Inn、301号室。

ところが、曲の途中で景色が変わる。

ホテルの部屋から、ニュージャージー州のコンサート会場へ場所が移る。

別の日、別の場所で録音された演奏が、一曲の中でつながっている。

部屋で一人歌ってたJackson Browneが、いつの間にか大勢の観客の前に立っている。

レコードを聴いているこちらも、ホテルからステージへ連れ出される。

3曲目『Rosie』は、さらに妙。

録音場所はニューヨーク州サラトガのコンサート会場、その舞台裏にある大きなリハーサル室。

ツアー写真家のJoel Bernsteinまでコーラスに参加して、写真を撮りに来た写真家まで一緒になって、いつの間にかレコードの中で歌ってる。

それも、この曲の主人公は、ステージで輝くロックスターなんかじゃない。

舞台裏にいる、少々情けない男の欲望と孤独──これがまた、妙に人間臭い。

4曲目『You Love the Thunder』で、再びステージへ戻る。
戻ったステージではバンドが思い切り鳴る。

という具合いに、ホテルの小さな部屋から、楽屋の冗談、そして大きなステージへと、同じレコードなのに、部屋の広さまで変わっていく。

A面最後の『Cocaine』は、イリノイ州エドワーズヴィルのHoliday Inn、124号室。

古いブルースの曲に、Jackson BrowneとGlenn Freyが歌詞を加えてるんだけど、

Glenn Freyといえば、Eaglesってことで、

西海岸のミュージシャンたちがつながっていた時代の空気も、この一曲に入っている。

ホテルの部屋で、仲間と古い歌を歌う。

ステージでは聴けない、夜更けの音楽。

B面 ─ バスの中には段ボール箱のドラム

B面の1曲目『Shaky Town』も、同じHoliday Innの124号室で録音されている。

ただし、こちらは翌日。

曲を書いたのは、バンドのギタリストDanny Kortchmar。

Jackson Browneひとりの旅じゃない。

一緒に移動しているミュージシャンたちにも、それぞれの歌がある。

続く『Love Needs a Heart』には、Lowell GeorgeとValerie Carterが作曲に参加。

Lowell GeorgeといえばLittle Feat。

このアルバムの周辺には、当時のアメリカ西海岸の音楽仲間たちの名前が次々と現れる。

そして8曲目『Nothing But Time』。

ここで、とうとう録音スタジオが走り出す。

1977年9月8日。

ニュージャージー州のどこかを走っていた、Continental Silver Eagleというツアーバス。

Russ Kunkelはスネアとハイハットに加え、段ボール箱を足のペダルで叩いてる。

段ボール箱!

アメリカ中を回る一流ミュージシャンたちが、走るバスの中で段ボール箱をドラムにしてる。

背後にはバスのエンジン音まで入っている。

録音の邪魔になるから消そう、とは考えなかった。

それも旅の音だから──。

バスは走る。
ミュージシャンは歌う。
エンジンも一緒に鳴っている。

終演後 ─ 客が帰ってから始まる歌

そして9曲目『The Load-Out』。

ここで、このアルバムの視線が変わる。

コンサートが終わる。
観客は帰る。
ステージの照明が落ちる──。

でも、まだ帰れない人がいる。

ロードクルーの人たち。

アンプを片づけ、ケーブルを巻き、重たい機材をトラックへ運び込む。

翌日には、また別の街で同じことをする。

Jackson Browneは、そんな彼らのために歌を書いた。

ここまで聴いてきた旅の音楽は、ステージの上にいる人間だけでは作れなかった。

バスを走らせる人がいる。
機材を運ぶ人がいる。
照明をつける人がいる。

その全員が、毎晩違う街へ向かっている。

そして『The Load-Out』は、最後の『Stay』へつながっていく。

『Stay』はJackson Browneの曲ではない。

Maurice Williamsが書いた、1960年のヒット曲。

ここでDavid LindleyとRosemary Butlerも歌い出す。

それまで旅の疲れや孤独を歌っていた男たちが、最後には観客に、もう少しだけここにいてくれと歌う。

『The Load-Out』から『Stay』へ。

この二曲は、切り離して聴くのが惜しい。

片づけの始まったステージに、もう一度明かりがともるような終わり方だ。

そして、レコードは終わる。

観客は家に帰る。

ミュージシャンたちは、またバスに乗る。

『Running on Empty』。

ガス欠なのに、走り続ける。

毎晩違う街で演奏して、ホテルに戻り、またバスに乗る。

ツアーが本当に楽しい。

旅先でいろんな人間に出会うのが、本当に楽しい。

ミュージシャンも、ロードクルーも、たまたま居合わせた仲間も。

そんな連中と一緒なら、段ボールだって、なんだって楽器になる。

段ボール箱まで楽器にしてしまうような仲間たちとの出会いが、楽しくて仕方ない。

だから、また次の街へ向かう。

どこまでも走り続けていたい。

この旅が終わってしまうのが、惜しいんだ。

だから、Stay――もう少し、ここにいてくれ。

音楽に高鳴る、この呼吸が続く限り

歓びに息切れしそうな、この俺のそばにいてほしい。

EPILOGUE|49年後の生梅

当時のその時のライブの様子をそのまま聞くことができる配信サービスを見つけて、聴いてみた。

当時、村山と行ったなー。
なんて物凄いミュージシャンなんだ!と、最前列に陣取ったんだから♪

いいんだよな⋯。
Jackson Browne♪

懐かしさと感慨もひとしおに、

ステージに現れた子供の声と、Jackson Browneの語り。

やっぱり、なんかヤダ──。

そして、その後に続く演奏と歌声。

やっぱり素晴らしい!!

やっぱり、かなりイイ!!!

──Jackson Browneに対する葛藤は、今もやっぱり変わらない。

タイトルとURLをコピーしました