Tom Petty『Damn the Torpedoes』永遠の家出少年と、ロックンロールという大家族

Tom Petty ── 永遠の家出少年と、ロックンロールという大家族。

ロック回想録🍑梅ちゃん日記|10月2日

The Heartbreakersの40周年ツアーを終えて、わずか1週間後
2017年10月2日、Tom Pettyは、66歳で亡くなった。

このとき、Tomは股関節を骨折していた。
それでもツアーを続け、最後までステージに立っていたという。
死因は股関節の痛みを抑えるための薬など、複数の薬剤による偶発的な中毒。

今日、Birdの棚から引っ張り出したのは、1979年の『Damn the Torpedoes』。邦題『破壊』。
赤いジャケットに、ギターを抱えた金髪の痩せた風貌。いかにも不良っぽい顔をしてるけど、Tom Pettyの頑固さはなかなかのものだったようで。
レコード会社との契約をめぐって裁判沙汰になって、破産申請までして自分の音楽を守ろうとしたかと思えば、1981年にはアルバムの価格を8.98ドルから9.98ドルに引き上げるという会社の方針に猛反発。ファンに余計な1ドルを払わせるつもりはないと、とうとうレコード会社のほうが根負け。
たかが1ドル。いや、Tomにとっては、たかが1ドルではなかったんだ。
もっとも、この頑固さは、どうも父親譲りだったっぽい。

1950年、フロリダ州ゲインズビル生まれ。
釣りや狩猟を好む昔気質の父親は、音楽や芸術に夢中になる息子を理解できなかった。Tomは父親から暴力を受けることもあり、家は必ずしも居心地のいい場所ではなかった。
ところが1961年、11歳のTomの前に、とんでもないミュージシャンが現れる。

Elvis Presley。

映画『Follow That Dream』の撮影でフロリダを訪れていたElvisを目の当たりにした少年Tom Pettyは、すっかりロックンロールに取り憑かれてしまう。さらにThe Beatlesが登場すると、今度はバンドというものに夢中になった。
父親には理解してもらえないけど、どうやら世の中には、自分と同じような連中がいるらしい。しかも、ギターを弾いて、歌まで歌っている。

17歳で学校を辞めて、音楽の道へ進むTom Petty。
父親の望んだ息子にはならなかったけど、頑固さだけは、しっかり受け継いでしまったようで。
息子を自分の思いどおりにしようとする父親、息子のほうは、自分を思いどおりにしようとする連中には噛みついていった。

家では父親、大人になればレコード会社。
いつの時代も古今東西、どこへ行ってもうるさい大人はいるもので。

そんなTomが1976年にデビューしたときのバンド名が、The Heartbreakers。

人の心を傷つける連中、女の子たちのハートを次々と壊して回るような、いかにもロックンロールらしい名前なんだけど、

この『Damn the Torpedoes』の中身を眺めてみると、曲のタイトルがなかなか興味深い。

「Refugee」は逃れてきた人。
「Even the Losers」は負け犬たち。
「Don’t Do Me Like That」は、
──そんな仕打ちはしないでくれ。

威勢のいい看板を掲げたわりに、歌っていることは案外、弱者に切実だったりする。

とはいえ、傷ついた心を大げさに語るのも、音楽で誰かを救いますなんて宣言するのも、ロックンロールには少々小っ恥ずかしい。

ギターをかき鳴らして、世間に悪ぶって、粋にHeartbreakersでも名乗ってやろうっていう、ロックンロール流の照れ隠し、不良の美学なのかもしれない。

さて、父親の望んだ道から外れてロックンロールの世界へ飛び込んだTomだけど、そこで出会った連中が、また、とんでもない顔ぶれ。

1986年からは、なんとBob DylanのバックバンドとしてThe Heartbreakersがツアーに参加。すでに自分たちもスターだけど、今度はDylanの後ろで演奏するっていうんだから、ロック少年にとってはたまらない話だったに違いない。

さらにGeorge Harrison、Roy Orbison、Jeff Lynneとも親しくなって、1988年にはTraveling Wilburysという、冗談みたいに豪華なバンドまで結成してしまう。

その誕生のきっかけっていうのが、これまた面白くて。
GeorgeがシングルのB面用に新曲を録音しようって時に、Tom Pettyの家に置きっぱなしにしてた自分のギターを取りに行ったついでに、Tom Pettyのことも誘っちゃった。

録音場所はBob Dylanの自宅スタジオ。

そこにRoy OrbisonとJeff Lynneまで加わって、たった1曲のB面を作るはずが、出来上がった「Handle with Care」があまりに良かったんで、B面にするにはもったいないって、レコード会社が言い出した。
それならアルバムを作ってしまおうってことになって、ロック界の大物5人によるTraveling Wilburysが誕生した。

しかも彼らは、全員がWilburyという架空の姓を名乗り、兄弟という設定で活動することにしたっていうんだから、なんとも楽しそう。ロック界の大御所たちが、揃いも揃って架空の兄弟ごっこ。
GeorgeはNelson、DylanはLucky、RoyはLefty、JeffはOtis。そしてTomはCharlie T. Wilbury Jr.。

なかでもTomが兄のように慕っていたのがGeorge Harrisonだった。

このGeorgeという人、友達に何かをプレゼントするのが大好きだったらしい。
2001年にGeorgeが亡くなった後、Tomが『Rolling Stone』で語った思い出話にこんなのがある。
あるとき、Georgeはたった1週間のうちに、Tomにウクレレを4本も持ってきた。
さすがにTomも、もう十分だと遠慮したんだけど、Georgeは、今回のは前のものより良いし、みんなが集まったときに必要になるかもしれない、と言って譲らなかったとか。

Georgeは遊びに来ると、夜通しウクレレを弾いていた。Tomの子どもたちに至っては、Georgeが弾き始めると、どうせ朝まで終わらないとわかって退散してしまうほどだった。
🪕

音楽を理解してくれなかった父親のもとを離れた少年が、大人になって出会った兄貴分には、頼みもしないのに次から次へと楽器を持ってこられる。
しかも、みんなで弾こうと言って、なかなか帰ってくれない。
父親には音楽を認められず、兄貴分には音楽でこんなに構われる。

人生、なかなか面白い。
父親や母親も含めて色んな価値観の人がいて、誰に出逢い、誰と別れて、何処の分かれ道を選ぶのかっていうのも、
人生というCross-Countryの醍醐味なのかもしれない。

Georgeが亡くなったのは2001年。
そして16年後の2017年10月2日、Tomも66歳でこの世を去った。

頑固で、喧嘩っ早くて、それでいて、こんなに人懐こい男だったTom Petty ── 。
レコードを聴きながら、そんな風に感じた。

父親とはうまくいかなかったかもしれないけど、Heartbreakersという仲間がいて、Dylanがいて、Roy Orbisonがいて、Jeff Lynneがいて、George Harrisonがいる。
どうやらロックンロールの世界で、ずいぶん賑やかな大家族を手に入れていたらしい。

そして、ファンに余計な1ドルを払わせたくないと、レコード会社にまで喧嘩を売る。
レコードを買ってくれる見ず知らずの連中も、Tomにとっては、その大家族の一員だったのかもしれない。

家出少年が見つけた音楽という家に、今度はほかの家出少年たちも集まってくる。

Bird Song Cafeにも集まってくる、永遠の家出少年たち。
今夜はTom Pettyのレコードを聴きながら、この頑固な兄貴と一杯やるとしよう。

Tom Petty and the Heartbreakers『Damn the Torpedoes』。
A面1曲目、「Refugee」。

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